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一景のススメぃ

私こと一景が、相方、水海とカワいくもユルい品々を求める日々。ゆるいキャラだったり、グッズだったり、本だったり。時には真面目に語ったりします。

美術という見世物 油絵茶屋の時代 木下直之 講談社学術文庫



前回紹介した見世物つづきで紹介します。
生人形ってどのくらいリアルなの?と思われた方も多いかと思います。
本書では表紙に生人形の写真が使われているので、
ぜひ、そのリアルさをご自分お目で御確認ください。

前回に引き続き、見世物に関する本です。

目次

乍憚(はばかりながら)口上

第一章 石像楽圃 夫婦か知らねど匹付合

第二章 手長足長 活ける人に向ふが如し

第三章 胎内十月 色事は何処の国でも変りやせぬ

第四章 万国一覧 洋行せずして異国を巡る奇術

第五章 油絵茶屋 みるは法楽みらるるも衆生済度

第六章 パノラマ 人造ニナリテ天設ヲ欺ク奇奇怪怪

第七章 写真油絵 写真ニシテ油絵油絵ニシテ写真

第八章 甲冑哀泣 油絵ハ能く数百年の久しきを保つ者なり

第九章 写真掛軸 之を眺むるに風韻雅致を極め

仕舞口上

生人形ふたたび-学術文庫あとがきにかえて

解説 丹尾安典

前回の「江戸の見世物」でも出ていた「生人形」についてさらに詳しく書かれています。
生人形ってどのくらいリアルだったのか?
文章からだけでは分かりづらい部分ですが、本書では表紙に生人形の写真が使われ、その程が明確に分かります。
表紙に使われたのは「相撲生人形」という題目で安本亀八の製作。野見宿禰(のみのすくね)と当麻蹶速(たいまのけはや)が相撲をとる様子を表したもので、表情はもちろん、筋肉の盛り上がりまでリアルに再現しています。
上の本の写真をクリックしていただくとAmazonで大きな写真で表紙が見られますので、あとでご覧下さい。すごいリアルですよ。
まず出てくるのが鼠屋伝吉。鼠屋とは、そのスジでは有名な祭礼の造り物、山車人形の作成を手がけた老舗。
その15代目が鼠屋伝吉で、明治6年にウィーンで行われた万国博覧会に出品された鎌倉大仏の模型を制作したとあります。
そして生人形といえば松本喜三郎。
かの高村光雲も4歳の頃に松本喜三郎の浅草奥山での興行をみて、「誠に夢の如く」「結構に出来て居ります。」などと語っていることから、高村光雲にも影響を与えたことは間違いないようです。
光雲は「喜三郎といふ人は唯一個の人形師ではない。(中略)我々は直接間接に其教を受けて居る。師なり恩人なり、同氏の為には祭典くらい行っても善い」との思いを抱いていたというくらいですから、松本喜三郎という人物はもっと評価されてもよいのでは?と思ってしまいます。
おもしろいのは、この生人形の見世物が性的な要素を濃くしていったという点。本書の表紙のようにリアルな人形であれば、自然、全身の造りこみに興味が行くのも頷ける。現にアメリカ人のケプロンが喜三郎に作らせた「貴族夫婦像」も衣装の下も精巧に作りこまれていたのです。
現代でいえばちょっとHな美少女フィギュア的な部分もあったということでしょう。
美術品といって差し支えないほどの完成度の生人形も見世物という側面から美術品として評価されなかった時代。
見世物と美術との境界線…そこを探っているのが本書です。
他の生人形師として安本亀八、竹田縫之助、大江忠兵衛、秋山平十郎、竹田源吉、安本善蔵らの名前も挙がっています。また、興行の様子も当時の錦絵が掲載されているので、どのようなものだったか想像しやすく、現存するものは写真が掲載。大蛸と猟師などはすごくリアル。
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生人形に興味を持たれた方は必見です。
おっと本書は生人形だけでなく、西洋目鏡(覗くと世界各国の風景が見れる)、写真掛軸、写真油絵、戦場パノラマといったものも掲載、江戸末期~明治の世相を窺い知るにも役立つ一冊です。

↓アマゾンで購入できます。

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