小説 2015/04/09 幕末新撰組をモチーフにした「夢幻戦記 栗本薫」 こんばんは。水海です。 今回、ご紹介しますのは、 夢幻戦記 (1) (ハルキ・ノベルス) 夢幻戦記〈2〉総司地獄変〈下〉 (HARUKI NOVELS) です。 幕末の新撰組のお話です。 主人公は沖田総司ですが、新撰組と云えば、 土方歳三、 斎藤一、 山南敬助、 永倉新八、 原田左之助、 近藤勇、 井上源三郎、 というように、定番の面々も登場してきます。 物語は、総司の幼少時代から穏やかに、密やかに始まります。 沖田惣次郎房良(かねよし)は多摩川の武家で生まれ、早くに両親を亡くし、姉のお光夫婦に育てられます。 惣次郎は、幼いころから自分が人とは違う存在であること、なにかが違っていることを人知れず感じていました。 それは、自分の育っている環境が、他の子供たちとは全く違っていることに気がついていても、そのことを姉に聞いてはいけないのだということも早くから悟り無意識に感じていました。 顔立ちや姿形をとってみても、近隣の子供たちと全く似ても似つかないことから幼くして彼を孤独にしていました。 異質であるが故の孤独で、子供たちと仲良く遊ぶこともありませんでしたが特に寂しいと自身では思うことはありませんでした。 同い年の子供たちとは感覚自体が異なっていたので、そのことに気づかれることを恐れました。 しかし彼は独りではなく、もっと違う、沢山の友達や仲間が傍にいました。 動物や虫、草木たちと話をしていたのです。 犬や猫、小鳥たちに囲まれ、花々や木々との会話のなかで癒やされ、心優しく聡明に育っていきました。 そんな心優しい彼の将来を心配し案じた姉は、惣次郎が9歳のとき、市谷にある剣道場で、天然理心流試衛館道場に、内弟子として住込みで惣次郎を預けることを決めます。 惣次郎が、沖田総司として新たな仲間や使命が待っている場所でした。 惣次郎は外見だけでなく、内面においても異質な存在でした。 自然の生き物たちと会話ができるだけでなく、不思議な夢を視る力を持ち合わせ現(うつつ)と夢の狭間(はざま)、時空をも跳び越えて違う次元と空間を一瞬にして移すことが可能でした。 そして、夢の中だけでなく、現世で、川で怪物に襲われたときに運命的な出逢いを果たします。 仲良しの犬が、彼を助けに身代わりとなってしまいますが、その危ないところを、空中から突然あらわれた男に間一髪で助けられました。 助けられた男に、絶対的な安心感と強烈な懐かしさを覚えて、自分の味方であることを確信します。 名前も分からないけれど、自分に誰よりも近しい似た容姿を持った男でした。 惣次郎は、いろいろな質問を彼にしますが、彼は、まだ惣次郎が幼体(ようたい)であり、いろいろと知る準備ができていないことを教えます。 本当の名前を、沖田総司と名乗り、総司の名前の意味は、総てをつかさどるものであると伝えます。 いずれ時が満ちるときに、早く、強く、大きくなって、私たちの王国を救い出してほしいとの、切なる願いを告げて彼は消えます。 そしてその夜、昼間の事で興奮もさめやらず、いつもの夢が訪れます。 惣次郎は、夢のなかで、何度となく見たこともない場所に行ったり、突然に友達の前から姿を消して違う所に現れては驚かれ、罵られてという夢を見ていました。惣次郎の視る夢は、とても鮮明で異様なほどまざまざとしてて、夢から醒めても、くっきりと体に残り、また夢の世界に戻ってゆきそうな現実感がありました。 見知らぬ、でも夢のなかでは何回かは見たことのある不思議な世界に昼間の男が立って、惣次郎を待ち、再会を喜んでくれました。 昼間の男は、Kと呼ばれていることを教えて、名前を、ケイルローンヴァンダレスαと名乗りました。 しかし同時に、自分の天敵となる存在で、美しい邪悪な者にも出逢います。 第1公子サキ・ローランドXと、その妹のウラニア。 美しくも邪悪なる兄妹は、予言の子どもである惣次郎を殺そうとしますが、Kが立ちはだかり、惣次郎が元の時空間に戻れるように手助けをします。 時空を跳び、現世に無事に戻った惣次郎は、試衛館に赴きます。 入門の機会に名を改めて、沖田総司と名乗り、総司の運命が、宿命の歯車が動き出します。 試衛館道場で、かけがえのない仲間たちにも出逢い、最初は総司を見くびって、絡んできた、兄弟子たちの原田左之助や永倉新八。 絡まれて困っている総司を助けてくれる夢のなかの、Kに似ている山南敬助。 Kと同一人物ではないのかという期待と不安…。 恐る恐る、河原での怪物のことを尋ねてみても、何も知らない様子に確信は持てませんでした。 試衛館に来てからも、総司の夢は続いていました。 ある日の夢のなかで、相手の名前を確かに呼んでるのに、自分は聞き取ることが出来ない、愛らしい人形のような少女で、「***さん」と、白嶺先生が存在する、緑と花々のある落ち着いた心が安まる世界。 しかし、その世界は、総司が少女を愛したゆえに悲運に巻き込み、奪われてしまう世界でした。 総司に語りかけるKの言葉(この世は、化け物だらけ…。 このさき出会うかもしれない化け物に、どれほどの愛するものを奪われて、悲しむことになるのか…。それにより、どれだけ総司が強く大きくなれるかを決める…。) 大きくなればわかる…。 つらい思いをしても、総司が強く、たくさんの愛につつまれていること、世界に愛されていること、総てを、つかさどるものであること…。 暗転する世界。 夢から醒める激しい失墜感による現世への引き戻し。幾度も転生に転生をかさね、ターニングポイントともいうべき幕末の時代に総司が存在をしている意味。 総司は、試衛館で剣術を磨いていくうちに、瞬間移動の超常能力を使わずとも、剣を持って敵方と対峙すると、別人格にいれかわって戦うためだけのプログラムに支配されるような常人にはない感覚に達し、試衛館の小天狗として実力を発揮していました。 そんな中で行われた、御前試合の場所で、試合相手側の秋月藩主の弟、修羅王の異名を持つ、秋月式部少輔に出会います。 彼の中に、天敵であるサキ・ローランドの存在を感じて総司は脅えました。 そして、試合後に視た悪夢夢に引きずり込まれます。修羅王-サキ・ローランドに放たれた怪物に襲われて、総司の前世でもある、東海公子の記憶も垣間見えて、永劫の輪廻、回帰の環のなかでの恐ろしい悪夢に苛まれます。 現世での総司の異変に気がついた山南によって、強制的に現世に戻れましたが、悪夢と連動して、現世では大地震が発生。 世にいう《安政の大地震》が起きました。 悪夢の狼狽もあり、総司は地震から庇ってくれた山南の危機に、咄嗟に瞬間移動をしてしまいました。 いつも総司のことを気にかけてくれていたがゆえに、少しずつ感じていた総司の人間とは違う違和感…。 それでも、山南は総司が神様からの特別な使命のために与えられた力であることを信じ、これからも総司のそばにいると誓ってくれるのでした。 総司自身が己の存在に脅え、真実に脅え、それでも運命は、土方歳三、斎藤一などと次々に出逢い、いつ襲ってくるともわからない<得体のしれないもの>に対する恐怖と悪夢。 総司の成長と、人との出逢い、読むごとに物語に引き込まれるお話です。 [0回]PR